ギター上達コラム

   第77回 「胸躍る演奏」を目指して

 

演奏において真に大切なことは、自分が紡いだ音がまとう「響き」をよく聴きながら弾くということだ。当たり前の事だが、音には必ず「響き」がついてくる。だが、その「響き」を聴こうと常に意識していないと、響いてはいても耳は聴いていないという珍現象が起こる。つまり、明確に意識しないところでは、耳には入っているようで実は聴いてはいないということになってしまうのだ。見ようとしないことは見えないのと同じように、聴こうとしないことは聴こえてこない。簡単なことではないが、「響き」を意識して演奏することができるようになれば演奏は格段に楽しくなる。

 

そこで、今月は「胸躍る演奏」を目指すための「音と響き」について考えてみたい。私たちは、演奏するとき楽譜に書かれている音譜を目で追いながら弾いている。この時、耳はどんな働きをしているのだろう。

「 ♪♪ ♩ ♩ | ♩ ♩ ♩ 」というパッセージで考えてみよう。ここに含まれる音(点)は7つ。7つの点は、弾かれるたびに点(中心)を持った7つの響きとなり、それぞれが順に響き合いながらメロディー(線)を紡いでいくことになる。このとき、気持ちの入れ方に目的意識がなければ7つの響きは個々ばらばらに響くこととなり、意味を持たない空虚な音の集まりになってしまう。

 

パッセージの中の7つの音の響きが、強弱、抑揚、緩急のまとまりをもって融合し合うためには、奏者自身が流れの中で響きをコントロールする必要がある。7つの響きが勝手に突っ走らないよう、自身がオーケストラの指揮者になったつもりで「よく聴き分けて」いくことが大事になってくるということだ。

 

具体的には、「点」や「線」に偏りすぎることなく、各音の響きを調和させたパッセージごとの新しい響きを創り出すということだ。もっと「豊かな抑揚で!」「しなやかな響きで!」「軽やかにor伸びやかな表現に!」等々。求める「強弱」「抑揚」「緩急」のふり幅は、無限に存在する。コツコツと、「もっと」を聴き分ける自分の感性を磨いていくしかない。それぞれの音(中心)が持つ「響き」の「強弱」「抑揚」「緩急」を俯瞰的にコントロールしながら曲を仕上げていく感覚は、指で弾くというよりむしろ、耳で弾くという感覚に似ているかも知れない。勿論、「よく聴き分ける」という微妙な感覚を掴むためには「超ゆっくり」を意識することが大事であることは言うまでもない。

 

これらのことを日々やり続けていると、ふっとに「ひっかかる」小さな気づきが生まれてくる。「あ!これいいかも?」とか「ん?これかな!」等、いつもとは違う感覚を敏感にキャッチし繰り返し検証していく姿勢が大事だ。違和感の理由を探っているうちに、それが「上達」への貴重な切符になっていることは珍しくない。私もそうやって、「気づき」を自分の「できる」に変えてきた。日々降りてくる「ひっかかり」を注意深く検証し続け、「胸躍る演奏」を熱望しているのは他ならぬ私自身でもあるからだ。

次々に融合し合って豊かに広がる音の響きが、煌めくメロディーとなって物語を織り上げていくような「胸躍る演奏」がしたい。そう願って、自分の弾く音の「響き」に耳を傾けている。今後も基礎・基本の練習を常に忘れず、一歩一歩を楽しんでいきたい。

                       2021.02.01

                                                吉本光男