上達コラム

  第87回「行く年くる年感謝の心で

 

早いもので2021年も師走になった。振り返って、今年も沢山のお陰様に包まれて目前の困難を乗り越えることができたことに感謝である。後半の親指の腱鞘炎の事では特に多くを学ばせてもらった気がする。

 

これまでにも様々な故障に見舞われながらもここまでやってきた。長時間座ったままでのギター練習は気を付けていないと10本の指は勿論のこと、腰や肩や腕など様々なところに支障をきたす。その度に、よくもまあ心を腐らせることもなく、それらとうまく付き合ってきたものだと思う。この開き直った楽観の境地には我ながら驚きもするが、一足飛びにこの境地に辿り着いたわけではない。

 

今回の「腱鞘炎」も決して軽いものではなかったし、長期にわたって今も治療が続いている。だが、不思議とそのことでやる気や自分の気持ちが落ち込むという事はなかった。これまで、どんな時も「焦らず」「くさらず」「怠らず」の気持ちをぶらさずに整えることができたのは応援して下さる方々の存在は勿論の事、『好き』と「この道」しかないという『一念』が心の根本にあったからなのだろう。

 

セゴビアの「心を溶かす美音の響き」、ブリームの「胸を突くような深い表現」、イエペスの「新しいものに向かう限りない勇気」。彼らの演奏に深く浸透している素晴らしい精神に直接・間接的に触れてきたこともまた、ぶれない楽観の境地をもたらす一因になっているに違いない。

 

 

人生において、これほどの『好き』に出会えたことの有難さを思う。そして、様々な困難に出会う度に、ひとりで生きているのではないことを痛感させられる。家族の存在、周りの人達の心強い支え、これまでに頂いた数えきれないほどのご縁の数々。それらは、自分のことでへこんでなどいられないという気持ちにさせてくれる。

 

若かったころはそんなことなど思いもせず正義の旗をぶんと掲げ、自分の感情の中で生きていたように思う。ギターもまた、若さゆえに「力を証明する」ごとき勢いで弾丸のような早弾きに夢中になっていた時代もあった。今考えれば、その時々の「偏狭な正義」ではあったとしても、全てが現在の私を形作っている貴重な経験であることを思えば、あらゆることに感謝である。

 

 

AlbumⅤ」は、長年弾き馴染んできた曲も多いスペイン編である。突然の問題勃発には仰天であったが、その分「おつり」がくるほど有難い気づきを得ることができ、本格録音に向かう想いは益々強くなっている。今さらではあるが、「この道」はこつこつと怠ることなく自分を磨いていくしかないことをあらためて思い知らされている。頂いたこの新しい気づきを自分の演奏の血肉にしていく為にも、一歩一歩を丁寧に前進していきたい。

 

「ゆく年;令和3年」に感謝しつつ、「くる年;令和4年」が会員のみな様にとっても、素晴らしい年となるよう心から念じている。

                          2021.12.01

                                                吉本光男