ギター上達コラム

    第89回「スペインのギター」〜忘れられない音色〜

 

20代後半から40代の頃、いわゆる名器と呼ばれるギターへの遍歴を繰り返した。今思えば「大うつけ」としか言いようがないが、「音色への渇き」は、それほどに激しかったと言える。

その頃の課題曲にスペイン曲が多かったという事もあるが、好きなギターは「ラミレス系」のものが多かった。これまでに、ラミレスだけでも6台を買い替えている。

50代になってようやく、もともと持っていた「ハウザーⅡ世」に落ち着くまでギター遍歴は続くが、落ち着いた後でもスペインのギターには何か心惹かれるものを感じていた。

昨年末、たまたま訪れた楽器店で気になるスペインのギターに出会った。まだ「親指腱鞘炎」が治りきっておらず、本格的練習には取り組めない状態であったが、「AlbumⅤ」がスペイン編であるという事もあってか、そのスペインのギターが創る温かい音色が私の心をとらえた。離れがたい気持ちのままにしばらくあれこれ弾いているうちに、ふと、「何だか忘れられない音色だ!」という感触をもつ。初めて手に取るギターなのに、何やら懐かしい感じの甘い音色にすっかり心を持っていかれた感じであった。

スギ材の特性であろう。ボディーからは華やかで、それでいてどこか郷愁を帯びた温かい音色が飛び出す。スペイン生まれではあっても、値段的には普のギターである。すぐに飽きてしまうかもしれないと思ったが、自分で所有しじっくり試してみなければ何も始まらない。教室において練習用ギターとして使うつもりで購入した。

さて、教室にやって来た新参もの「スペインのギター」。古参の名器たちを前にお披露目の時がやってきた。

このギター、古参のギターたちに比べると随分と安価ではあったが、音色の魅力だけでなく素直な楽器であることが分かってきた。雑味を含んだ音質や分離し切れない音の響きの感じは免れないが、弾き手の想いを丸ごと受け入れ、こちらの想い描くイメージを実に素直に表わしてくれる。

「ハウザーⅡ世」は、非常に手ごわい楽器であった。銘器と呼ばれるがゆえにそれは、「壁」となって私の前に立ちはだかった。思いに応えてくれるまでに20年以上を要したが、今では最高の相棒となっている。「ハウザーⅡ世」は頑固ではあったが、所有した時すでに世界の銘器であり、心から打ち込めるだけの「品格」を持った楽器であったのである。

 翻って、新参ものである「スペインのギター」は、名もない市井のギターである。しかし、心を込めて育てていきたいと思えるほど「好みの音色」を持っていた。弾き手の「想い描くイメージ」を邪魔しないばかりか、その気にさせる「色香」を持っていたのである。

 この年齢になってつくづく思う。演奏において、楽器そのものは自分自身の「技量」を超えるものではない。楽器に頼らず己の腕をこそ磨け、という事だ。

現在、育てるつもりで愛情を持って弾き続けているが、暴れて雑味の多かった音の響きも次第に落ち着きつつある。この後、心に納得できる演奏をめざしている私のよき友として、共に「ギター道」を歩いていくことになるのだろう。

本気で育てていきたい気持ちにさせてくれた「忘れられない音色」のスペインのギター。この偶然の出会いは、今後の「AlbumⅤ」本格録音に向けて大いなる瑞祥となりそうだ。 

                               2022.02.01

                            吉本光男