ギター上達コラム

         第21回 井戸は深く掘れ

 

 私にとってそれは「音色」であった。若い頃セゴビアの演奏を初めてしかも、私の住む名古屋で聴くことが出来た。そのときの衝撃は今も忘れることができない。得も言われぬ美しい音色に鳥肌が立った。

その時聴いた魂に沁み込むような遠い響きが、ずっと頭から離れない。

今も、ギターを弾く度にその時のセゴビアのギターの響きが鮮明に蘇り激しく私を奮い立たせる。

 

どうすればあのような美しい音色が引き出せるのだろう。

爪の形だろうか。磨き方に秘密があるのだろうか。

タッチはどうか。

右手のフォームは?

映像を観ると、弦に触れている瞬間の指の動きがどうも怪しい。

 

 後世に残されたセゴビアのDVDを何度も何度も見た。あらゆる角度から自分のそれと比較し、徹底的にタッチにこだわった。その瞬間を捕える為、時には画像を一時停止して動作の成り行きを検証したり、音があると気が散るので、音声を消して動きだけに集中して見たりもした。

 

  25年程くらい前にスペインに渡り、セゴビアの高弟、ホセ・ルイス・ゴンザレス教授を訪ねて右手のフォームへの教えを受けた。このことは、セゴビア奏法を追及していく上に、絶対になくてはならぬ項目であることが、何年も経過した後に本当の意味でやっと認識できたことが思い起こされる。

 

 心に浮かぶ疑問や気づきのままギターに向き合っていると、時が経つのを忘れてしまう。セゴビアの音色を求め続けるギター人生は、今も、そしてこれからも、きっと、あの世に行ってまでも変わることはないであろう。そして、気が付けば、遥か彼方にいたはずのセゴビアが、すぐ目の前で微笑んでいる時がある。憧れ、求め続けたセゴビアトーンに近い音が自分のギターから出たとき、それは至福の時間である。

 

 私の出発点は「音色」であった。そこを深く、深く掘っているうちに沢山の気づきを得ることができた。プロの演奏家としてぶれずに毎日を過ごすことができているのは、一つのことを深く求め続けることができているからだと確信している。

あなたのこだわりはなんですか?

こだわりは人それぞれに違う。ただ、掘り続ける熱意と勇気と根気があればよい。それが何であれ、求めるものは必ずそこにある。

井戸は深く掘れ!

                          2016.06.01

                                                                     吉本光男