ギター上達コラム

     第27回 繋がる「ありがとう」の世界

 

  ここ数年、1年が過ぎるのが早い。2016年、「年初め」の抱負を語ったのは、つい此前のことだったような気がする。

時間は個人の感覚や年齢によることも多いと思うのだが、外見からは昨年とそれほど変わらないように見える私自身の中身となると、まるで宇宙人に乗っ取られたくらいの勢いで変貌している。

それを思えば、1年間という正確な時間は正しく私の中を流れているのに違いない。

 

 今年1年、特に後半を振り返ると小さなものも含めて聴衆の前で演奏する機会が多くあった。クラシックギターのプロという立場での演奏であるから、どんな小さな会場での演奏であっても

「プロの演奏家」としてのそれが期待される。従って、やはり緊張から免れるわけにはいかないのだが、それは同時に、私自身のギターへの熱い思いを直接披露できる「絶好の機会」でもあったことになる。そういう意味で、恵まれた1年であったと心から感謝している。

 

 コンサートともなれば、日程が決まると同時に数か月前から普段より格段に精密な練習が続くことになる。以前であれば、準備の段階から当日までの数か月間は人や物事に対して「ぴりぴり」していた。会場のこと、案内のチラシや集客のこと、受付・接待のこと、駐車場のこと等々、演奏以外のことも気になり神経過敏になってしまう自分を持て余すことが多かった。今年、4つの

「サロンコンサート」を行った。有り難いことに、応援して下さる多くの方々のご足労のお蔭で私自身は「会場の音響」のこと以外は全てお任せ、演奏だけに専念することができた。

このことが持つ意味は大きい。

 

 精密な練習が求められる「コンサート」が終わる頃に、技術面での新しい気づきを得ることはこれまでにもよくあった。

今回も、「呼吸と繋がる脱力の正しい在り方」を実感できたことが貴重な経験となっている。演奏だけに専念できたことで、「新たな未来に繋がるスタート」がきれたことは、素直に嬉しいことだ。その上、今年は上述の演奏技術面だけでなく、人としての生き方への気づきの面でも大きな成果を持つ事ができた。

人と人が繋がる「ありがとう」の世界の豊かさ、「ありがとう」の言葉がもたらす優しい幸せの響きに、演奏者として最高のエのネルギーを頂いた気がする。

 

 日常の喧騒から離れて、「音楽を楽しむ」コンサート会場に満ち溢れる「ありがとう」の拍手から生まれるエネルギーは、想像を超える強い波動を持っているらしい。「打ち寄せるような拍手の波」が、演奏者にとっては未来への「勇気」に繋がっていくのだ。繋がる「ありがとう」の世界に気づかせていただいたことは、今年最大のプレゼントになった気がしている。感謝である。

 

 振り返って思うことは、アマチュア、プロに関係なく、芸事の

「上達」のためには、「技術」と「人間力」両輪が揃わなければ実現しないということだ。目の前の全てのことに感謝できる人間としての力は、今すぐ手軽に手に入るようなものではないかもしれない。しかし、当たり前のことに「ありがとう」の心で向き合うことができるとき、夢は歯車を大きく廻すだろう。

両輪を意識して、共に精進の道を歩いていこう。

                        2016.12.01

                                                                吉本光男