ギター上達コラム

    第35回 「想い起こし」は「ゆっくりと」がいい

 

8月、日本はこれから台風の季節である。7月は、九州北部を襲った豪雨による甚大な災害のニュースがテレビや新聞で連日報道され心が痛んだ。最近の想定外の気象乱の備えはなかなかに難しいが、せめて、今できる範囲での「準備」だけはしておきたいと痛感した。

 

さて、外は焼けつくような猛暑日ではあるが、元気を出して「日々の練習計画」についての話を進めよう。皆さんの練習の参考になれば幸いである。ギターを習い始めて2・3年もすると課題曲だったり、好きな曲だったり、手元に楽譜が溜まってくる。しかし、新しい曲との格闘の中にあると、以前に弾いた曲はすっかり忘れてしまうということが多い。それは実にもったいない話である。せっかく弾けるようになった曲。できれば「いつでも弾ける」状態にキープしておきたい。

 

私は、「過去」「現在」「未来」に楽譜を区分けして整理し、それぞれに応じた時間の配分のなかで集中できるように「日々の練習計画」を組み立てている。

「過去」・・・忘れた曲

「現在」・・・より充実させたい曲

「未来」・・・これから新しく覚えていきたい曲

 

「過去」に弾いた曲で今後も大切に弾いていきたいと思っているが忘れてしまっている曲がある。「想い起こし」の曲としてファイルし、じっくりと向き合う時間を取っている。この時、さらさらと「おさらい感覚」で弾いてしまわないことが肝要である。記憶に頼った練習では、音符への意識が漫然となり弾き方が雑になってしまうからだ。つまり、「想い起こし」の練習では一音一音、運指や音の響き等を確認する気持ちで楽譜と照らし合わせ、『ゆっくり確実に弾いていく』ことが最重要課題になる。一度に全体を弾ききることを目標とせず、まとまったフレーズごとに分けて「完成度を高める練習」と位置付けている。

 

「現在」のファイルに入っている曲は、これまでに弾いてきたなじみのものが中心である。ギターの特徴である幾重にも広がる音色を、どこにどう生かすかは実に永遠の課題だ。『工夫を凝らし、曲想を練っていく』過程で、イメージ通りの表現ができた時は、それまでの疲れも吹き飛んでしまう。

 

「未来」のファイルには、これからマスターしたい新しい曲が入っている。この場合、暗譜が中心となるので、「音符貯金」方式が有効である。練習の仕上げには、毎回スタートから取り掛かるので重複的な繰り返し練習ができるからである。音の響き・音の重なり・立ち上がるメロディーを確認しながら、『体に刻み込ませる』練習となる。

 

どの場合であっても、練習の初手は「小さく」始めるのがいい。静寂な空間のなかで、ギターが自然に鳴りだし音で満ちてくるのを待つ時間は真夜中の贅沢、至福のひとときである。

                        2017.08.01

                                                  吉本光男