ギター上達コラム

            第39回  音量の違い

 

 ギターを弾きながら、気になることがふっと浮かんでくることがある。それは、気にしなければ一瞬のうちに跡形もなく消えてしまう「一瞬の現れ」でしかない。消えてしまえば再び浮かぶことのない小さな泡のようなものだ。だが、そんな小さな「気がかり」が実は、とても大きな気づきを孕んでいたりするのだから人の宇宙は面白い。

 

 さて、今月は「音量の違い」について考えてみよう。

【自分が弾いているこの音は、どのような感じで聴く人に届いているのだろう】ギターを人前で弾くようになってから脳裏に浮かんだこのことは、ずっと気になっていた。つまり、演奏する者は、ギターのサウンドホールの背後にいる。聴衆はサウンドホールの前にいる。だから、両者の音量の聞こえ方は違って当然である。演奏している者にとって「ちょうどよい」と感じる音は、聴衆にとっては妥当な音量ではないはずなのだ。このことは、いつも私を悩ませていた。

 

ギターの場合、演奏者と聴衆の位置が真逆であることによる気がかりなのだが、これは、センシティブな演奏を志す者にとって今も昔も避けては通れない大問題なのである。もっとも、大問題であることに違いないのだが、神経質になることとは違う。つまり、弾く者と聴いている者の聴こえ方には、明確に「違いがあることを明確に意識していればいい」ということだ。はっきりとした意識があれば、確認しようとする心の使い方が生まれてくるからである。確認の仕方は人それぞれで、意識したところから、自分なりに工夫して考えていけばいい。

 

早めに会場入りし、他の人に聞いてもらって確認するのもいいし、普段の練習時に自分の出す音量の聴こえ方を把握しておくというのもいい方法だ。要は、今自分に聴こえている音量の具合が、聴く人にどう届いているかを常に意識していることが大事ということである。演奏の途中でタイミングを見計らって少し体を傾けてみるのも有りだろう。耳をホールに近づければ、お客様に向かって飛び出る一瞬の音をキャッチすることは十分に可能なのだから。勿論、厳密には会場の広さや人の入り方、舞台の位置など聞こえ方には様々な要因が絡んでくるのだが、まずは、自分のギターの「音量の物差し」を持っていることが必要ということである。

 

 気づきは、たいていの場合「小さな気がかり」から始まる。キャッチしたら、納得がいくまで考え続けることが大きな気づきに繋がっていく。技術は教えられるが、心の使い方を教えることは難しい。どんな小さな不思議にも素直に心を傾け、考え続ける「くせ」をつけていくのはいいことだ。「くせづけ」は、あなたの心に浮かんだ小さな波紋には、「必ず意味がある」と思うことから始まる。

                      2017.12.01

                                            吉本光男