ギター上達コラム

         第41回   「 巧 い 」の 向こう

 

2018年。「一つの挑戦」は、思いもよらぬ幸せを運んできた。昨年あたりから少しずつ取り組んでいる「楽譜再考」のことである。「楽譜再考」とは、これまでに弾いてきた楽譜にじっくり向き合い、納得のいく演奏にするための運指や演奏表現を工夫し、こだわりの専用楽譜にすべく書き直していく作業のことである。楽譜『眠れる石のお姫様』に命を吹き込むのは、演奏者の仕事である。五線の上に表現された音譜「閉じ込められた命」に熱い息吹を吹き込み、どのように躍動させていくのかを読み解くことは、演奏者に課せられた終わることのない命題である。

 

世界の偉大な作曲家達が残してくれた名曲といわれる数々の遺産。そこに携わり、これまで弾き続けてきた曲の数々を思う。忘れてしまっているものも数多くある。それら「眠った命」を「躍動する熱い命」に蘇らせ、よりよく輝かせるための再考の作業が、毎日の時間をこれほどに輝かせてくれることになるとは!!!まるで、昔失くした大事な宝物が、思いもよらず手元に戻ってきたような、そんな望外の喜びである。演奏家としての長年の経験は、若い頃には気づかなかったアイディアを生み出す確かな力になっている。浮かんでくる新しいアイディアを取り入れることで、曲全体がこれまで以上に魅力的に感じられる様になることは、「楽譜再考」の醍醐味である。

 

まずは、「巧い」のレベルまで努力することだ。「巧い」は、根気よく一歩一歩技術を磨いていけば達成できるステージである。だが、ギターに限らず本当の楽しさは、その先にこそあるといえよう。「巧い」のその向こうである。「巧い」の向こうへは、「技術を超えてその魅力を聴く人の心に染み入るように届けたいと思う心」がなければ入ることは叶わない。そこは「玉鋼の扉」を持つ、いわゆる究極のステージというわけだ。ギター道を目指す者であれば、演奏技術に対する評価に甘んじることなく、その向こうに漕ぎ出す熱と勇気を持ちたいものだ。「巧い」の向こう、「玉鋼の扉」へのスッテップを、私なりに考えてみた。

 

ステップ1 ギターに出会う「幸運のご縁」を持つことができる

ステップ2 ギター練習を楽しいと感じる

ステップ3 ギター練習の時間を確保しようとする気持ちがある

ステップ4 新しい曲に挑戦する意欲が持てる

ステップ5 生活の中に、30分以上の練習時間を位置づけが出来る

ステップ6 人前で弾くことに挑戦し、継続出来ている

ステップ7 自分の持ち曲を3曲以上、常にキープしている

ステップ8 音色や指使いなど自分なりに工夫できる

ステップ9 音色や指使いなど演奏に生かすことができる

ステップ10  「巧い」と、人に共感してもらえる演奏ができる

 

あなたのいる位置は、今どのあたりであろうか。「楽譜再考」に腰を据え、深く読み込んでいくことでしか自分独特の表現は生まれてこないことを思えば、今、漕ぎ出せるところまで来たことに感謝せずにはいられない。

あなたも、「ステップ10」に届いたら「幸運のご縁」を生かし、「巧い」の向こうを目指してみよう。楽しみが喜びに変わる日が、必ず来るだろう。

                        2018.02.01

                                             吉本光男