ギター上達コラム

         第58回 優先順位

 

5月末に「Solo Album4」(南米ギター名曲集)の収録を終えたこともあり、6月から既に、「Solo Album5」(スペインギター名曲集)に向けて始動している。現在、取り組んでいる曲はアグアドの「序奏とロンド」である。「Album5」の柱ともなる曲である。以前から少しずつ手に馴染ませてきている曲ではあるが、録音となると格段の精密さが要求されるため、楽譜を日割りして音符貯金を重ねていくことになる。6月号でも書いたことだが、日常の練習を、録音して聴いてみることで曲の完成度を上げていくやり方に切り替えて取り組んでいる。コンサートでは、メロディーは時間と共に流れていくので精密度もさることながら、豊かなイメージを大事にした演奏を心がけることになるが、録音となると何度でも聴くことになるので小さなミスやちょっとした傷が耳に残る。だから、マイクの前に座るだけで何やら緊張するし、思ったように弾けなくなってしまうことを何度も経験している。ならば、曲の精密度を上げていくために日ごろから録音練習を取り入れていけばよいということで、6月からスタートした新しい挑戦である。

 

しかし、それは、ある意味かなり怖いことでもある。演奏の悪い面ばかりが気になり、自信喪失になりがちだし、伸び伸びとした自由闊達な演奏の醍醐味が失われてしまう。そのため、気分が落ち込みがちになる。なによりこの方法は、さらなる意欲につながらないことを発見した。そこで作戦を変えることにした。録音は、「Album制作」という目的のためには厳しいけれど避けて通れない関所のようなものだから、何としても気分よく通過する必要があるのだ。作戦変更と言っても格別なものではない。「Album5」は、スペイン編である。これまでのアルバムの中に入っている曲も入れることになる。そこで、最も馴染んできた曲から録音し精度を上げていくことにしたのである。精度を上げるには、全ての曲を録音し全体を眺める必要があるのだが、一度にやれるわけではない。つまり、優先順位を決めることが必要になる。ならば、順番として馴染んできた曲から順番に精度を上げていく方が着実に早く仕上がるというわけだ。何より、出来上がっていく嬉しさを実感しながら取り組めるのがよい。長期的に続けていこうとする場合、楽しく実践できることは必須のことである。

 

この作戦の第一目標は曲の精度を上げていくということなのだから、そこが達成できれば順番は気にすることではないのだ。以前に収録した曲でも忘れているものがあるので、最も自信のある曲から録音練習していくやり方で進めるようにした。それからは、「Album5」への期待感が膨らんでくるようになった。何事も、やり様である。必ずやらねばならない事であるのなら、「どうすれば楽しく」「気分よく」やれるのかを自分で考えることが大事ということだ。

 

「序奏とロンド」は、録音して全体を見渡す段階に至るまでには数か月かかることになる。何しろ時間もかかる曲である。日々、音符貯金をしながら仕上がる日を楽しみに練習に励んでいる。録音して全曲の精密度を上げていく。有難い事にこの方法は、録音本番時に備えておきたい必須の力「精神力」を鍛えることにも貢献しているようである。「上達の道」に王道はない。自分に相応しいより良い方法を検証しながら見つけようとする「持続する意志」と「諦めない心」がありさえすれば充分である。また、Album収録に限らずより納得出来る演奏を求める人にはお薦めである。録音は演奏の鏡なのだから。

                       2019.07.01

                                               吉本光男